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緑内障の話

はじめに

 緑内障は我が国の失明原因の上位を占める重要な眼疾患ですが、初期には自覚し辛く多くの潜在患者がいることが知られています。
  
 また緑内障は古代ギリシャの時代から知られていたようで、ヒポクラテス全集(大槻真一郎翻訳編集1997)第9巻60編の「視覚について」の初頭パラグラフに現代の急性緑内障を述べたもの思われる以下のような文章があります。   
"視覚のすっかり損なわれた瞳孔は、おのずと暗青色となるが、それは急激
におこる。ひとたびそうなるともう手の施しようがない。しかし瞳孔が紺
青色になる場合には、長い間に少しづつ損なわれていき、またしばしばも
う一方の眼球も、かなり後になってから損なわれる。...″

 ところで、緑内障は最近よくマスコミでとりあげられ啓蒙キャンペーンが盛んにおこなわれるようになったため患者の関心も大いに高まっています。   
  
 以下拙文ですが、緑内障について少しでも理解が深まれば幸いです。

 

疾患の簡単な解説

緑内障とはどんな病気なのでしょうか?
緑内障の定義は?

 白内障なら水晶体が混濁してくる病気と端的に定義することができます。
 緑内障は、従来高眼圧のために視神経などに障害を受けた状態と解されていました。

  しかし正常眼圧緑内障や低眼圧緑内障などといった緑内障の意味と矛盾するような病名(例えば、低体重肥満症や正常血圧高血圧症などの病気はあるのか?)がでてくると、にわかに緑内障がわからなくなってしまいます。
 実は、緑内障は未だ病態が完全に解明されてはおらず、どんな病気かについて統括的に定義することはできていないのです。ただし、このことは緑内障に有効な治療法がないという意味ではありません。
    
 現時点における緑内障の理解に立脚した暫定的なものとして、北澤克明先生の著書"緑内障クリニック 1996 金原出版"には以下のように記されています。

緑内障の定義
 緑内障は、眼圧、視神経乳頭、視野の特徴的な変化の少なくとも一つを共有し、眼圧を十分下降させるさせることにより視神経障害の改善あるいは進行を阻止しうる、眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患群と定義できる。

 北澤先生はさらに、この定義の限界として

1: 現在、個々の症例において、視神経障害がどの程度のレベルの眼圧を生じるかを明らかにすることができないこと。
2: 眼圧とはまったく無関係に特徴的な視神経障害、視野変化が生じる可能性が存在することも明らかである。

を挙げ、今後、視神経障害の成立機序が明らかになるにつれ、必然的に定義も変化しうるとされています。

 
緑内障の分類

 ひとくちに緑内障といっても種々のタイプがあります。
まず発生原因により3つのタイプに分類されています。

1: 原発緑内障:他に原因疾患がなく、眼圧上昇の原因が不明
2: 続発緑内障:緑内障以外の眼の疾患、あるいは全身疾患が原因となり眼圧上昇を生じる
3: 先天緑内障:胎生期に生じた前房隅角発達異常に起因する房水流出障害が原因となり眼圧上昇を生じる

 次に原発および続発緑内障は隅角所見により2つのタイプに分類されています。

a: 開放隅角緑内障:隅角の閉塞はないが、繊維柱帯の房水流出抵抗の増大のために眼圧上昇
b: 閉塞隅角緑内障:隅角が虹彩根部で閉塞し、房水流出が障害され眼圧上昇

 さらに開放隅角緑内障の内、眼圧21mmHg以下の眼圧正常のものを正常眼圧緑内障としています。

注)眼圧、隅角、房水等については以下に説明します。

 
どうして緑内障というの?

 名前の由来は白内障は進行すれば瞳孔領が白くみえてくるので名前の由来は納得できますが、緑内障は眼が緑色に見えるわけでもないのにどうして緑内障というのでしょうか?(最近は白内障も眼が白く見えない内に手術してしまうことがほとんどですが)
              
 緑内障は英語でGlaucomaといいますが、Glaucoとは青緑色の色調を意味する言葉(乳糜色や海のような色調という説もあるらしい。)です。

 緑内障の名の由来は、やはり瞳孔が緑色に見えることからきているらしい。

 ところで緑内障の歴史を詳しく研究された黒瀬先生は以下のような興味ある考えを述べておられます。

 ヒポクラテス全集のGlaucosee(Glaucoma)という疾患名は、以降19世紀に至るまでの2ミレニアムを通じて、ギリシャ人、アラブ人、ローマ人の医師、そして文芸復興後のヨーロッパ医師の間に受け継がれ生き残り、ある時は水晶体の疾患、ある時は角膜の疾患、房水の疾患、硝子体の疾患、またはブドウ膜の慢性疾患、時にはさらに眼球の硬くなる疾患等々の症候論的、病因論的、罹患臓器組織別に原因推論の華を咲かせてきたようです。それもこれも失明に連なる眼の変化を一括してGlaucomaの言葉で表していた感がするのですが......... 。
ところが18世紀末から19世紀の初頭にかけて、Glaucomaとは高眼圧に伴う疾患群という報告がなされはじめてくる。以下略
黒瀬 芳俊 日本の眼科 71:7号(2000)p919-920

 21世紀を迎えた今日、分子細胞生物学の進歩により、網膜神経節細胞の細胞死や、軸索障害が分子機構から検討することができるようになり、徐々に視神経障害のメカニズムが解明される可能性がでてきました。

 緑内障の疾患概念が今まさにかわろうとしているようです。

 
緑内障の人はどれぐらいいるの?


 40才以上、8924人を対象に1988~1989年に全国7地点において行われた緑内障疫学調査で、40才以上の緑内障有病率は3.56%で、推定緑内障患者は約194万人であることがわかりました。

 また病型別では、正常眼圧緑内障有病率が2.04%で全緑内障の約6割を占めています。
そしてそのうちの約80%の人は、自分が緑内障であることに気づいていない潜在患者であるとされています。

眼圧の分布と緑内障性視野欠損が検出される頻度
図4ー1 緑内障は日本を含め先進国では失明原因の上位を占めています。

日本人の失明原因
図4ー2 日本人の失明原因

 上述したように初期には気がつきにくく放置すると失明にいたる疾患です。

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緑内障に関係する眼の解剖と生理について

 緑内障に関係の深い眼球構造として隅角、房水、視神経乳頭などがあげられます。眼鏡技術者にはあまりなじみのない部分と思われますので少し説明しておきたいとおもいます。
隅角

 角膜の内面と虹彩根部が接する部分を隅角といいます。角膜内皮のデスメ膜と強膜の境界のあるシュワルベ線から虹彩根部までの部分を繊維柱帯といいます。

 毛様体は虹彩の後方に位置し、多数の隆起(毛様突起)よりなる毛様体ひだ部と毛様体扁平部からなっています。毛様突起の後房側には毛様体無色素上皮と毛様体色素上皮の2層が存在し、房水産生がおこなわれています。

 
房水の流れと役割

 房水は眼球内の前房と後房をみたし、水晶体や角膜への栄養補給、老廃物の排出と眼内圧の恒常化に働いています。成人の房水量は約350μ?、産生量は毎分約2.5μ?で1?2%が毎分新しく置き換わり約100分で全量が新しくなるといわれています。房水の流出経路は、主経路(経線維柱帯流出路:隅角→線維柱帯→、→...、約90%)と副経路(経ブドウ膜強膜流出路:虹彩根部→毛様体筋→脈絡膜、約10%)の2つが知られています。

房水の流れと役割
   図4ー3

 
視神経乳頭

 視野の中でマリオット盲点をつくることで知られていますが、視神経乳頭は網膜の視細胞が水平細胞、アマクリン細胞→、網膜神経節細胞とシナプスしたあと視神経線維が集まり眼球外に出ていくところです。視神経が強膜を通過する部位は篩板と呼ばれています。

 視神経線維は、網膜内で無髄神経線維、篩板より中枢側では有髄神経線維となっています。視神経乳頭は、硝子体側から表在性神経線維層、前篩板部、篩板部、後篩板部に分けられています。

視神経乳頭の構造
     図4ー4  視神経乳頭の構造

 
眼圧について

 眼球は大気圧よりやや高い内部圧(眼圧)を有しています。
 眼圧は主として房水の毛様体上皮からの産生量と主経路(経繊維柱帯流出路)および副経路(経ブドウ膜強膜流出路)からの流出量のバランスで決定されています。
多くの人の眼圧はほとんど10?21mmHgの間にあり、平均値は約14mmHg前後になっています。眼圧の分布が正規分布をするものと考えて(実際の眼圧分布はピークが13.5mmHg程度に存在し、高眼圧側になだらかな山型をしている)、正常範囲の上限は、平均値+2標準偏差にあたる21mmHgがその目安とされている。

  図4ー5に示すように眼圧が21mmHgを超える高眼圧の眼に緑内障発症の比率が高いことが知られています。高眼圧の際に視神経が障害され緑内障が生じることは、元々緑内障でなかった眼がなんらかの眼疾患で高眼圧になった場合に緑内障になる(続発緑内障)ことからも明らかであり、動物実験でも確認されています。

 以上のことから眼圧上昇が緑内障発症の大きな要因の一つであることは確かなのですが、眼圧が21mmHg以下の正常範囲にあっても、緑内障性視神経萎縮を生じる場合(正常眼圧緑内障)もあるし、眼圧が21mmHgを超えていてもなんら障害が生じない場合(高眼圧症)もあるのです。

 よって、眼圧の測定のみでは緑内障の診断を確定することはできないのですが(眼底所見や視野障害の程度を併せて勘案する)、個々の眼にとって、緑内障の発生、進行、治療効果がその眼の眼圧レベルに大きく影響されていることが多くデータから確認されています。この意味からやはり眼圧測定は緑内障の診断、管理のうえで必須の検査といえるのです。

我が国の緑内障推定有病数
図4ー5  我が国の緑内障推定有病数

参考:眼圧に影響を与える要因について
眼圧はいつも一定の値であるわけでなく血圧と同じように種々の要因で変動しています。
表4ー1に主要なものをまとめておきます。

因 子

関 連

コメント





年令

人種
遺伝

加齢とともに低下
女性>男性
黒人>白人
遺伝傾向あり

男性で著明
40歳以上で著明

多因子遺伝





 

日内変動

季節変動
血圧
肥満
体位
運動
薬物


飲酒

喫煙
喫茶

ほとんどの人で認める(3〜6mmHg)

夏季<冬季
血圧上昇とともに眼圧も上昇傾向
肥満とともに眼圧も上昇傾向
座位<仰臥位
一過性に眼圧低下
多数の薬物が影響するが得にステロイド剤の外用、内服により眼圧が上昇する
アルコールは眼圧を低下させる効果があるが、大量飲酒は飲水試験と同様の効果のため眼圧が上昇する
一過性の眼圧上昇
多量摂取で眼圧上昇

人により異なるが、午前10〜11時頃最高になる場合が多い。


1〜2mmHg
短時間の運動後10〜20分間
若年者では早く、強く反応する



カフェインの効果



屈折異常

閉瞼
炎症

遠視<近視

強い閉瞼で眼圧上昇
通常低下

眼圧は眼軸長に有意に正の相関

毛様体機能低下

表4ー1 眼圧に影響を与える要因

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